旅する人々 ー日本をちょこちょことー

自分たちの旅の様子や海外からの友人たちの旅を紹介しています。

準鎌倉人

わたしの家系は両親とも長野で、父は商売、母は農民の家だった。戦後まもなく母方の祖父が東京に進出して商売を始め、やがて末の娘である母が今の父と結婚し横浜に居を構えた。そこで生まれたのがわたしなので、私は横浜の人間ということになる。わたしにとって横浜という街は繁華で洒落ていて便利でもあるが、どういうわけか愛着というものが生じなかった。それは今でもそうである。むしろ幼い時、しばしば祖父に連れて行かれた鎌倉の神社や、隣接する葉山町の方が懐かしく、私の故郷は鎌倉であると言いたい気持ちが強い。生家から鎌倉までは車でも電車でも30分ほどで着く。しかし鎌倉の住民になったことは一度もないのだから、鎌倉人だと主張するのは滑稽だし嘘になる。

そこでわたしは準鎌倉人という概念を独りでっち上げ、自分を慰めているのだ。正規の鎌倉人でないわたしにとっては、人より努力して鎌倉人に近づかなければならない。だから勉強もしなければならないし、せっせと通って鎌倉通にならなければならないと思っている。こうした滑稽ともいえる努力を披露することにどのような意義もないのは分かっているのだが、もし僅かでも旅の参考になるようなことがあれば想定外の幸せである。