旅する人々 ー日本をちょこちょことー

自分たちの旅の様子や海外からの友人たちの旅を紹介しています。

越前ガニの歴史

わたしは今、小松空港に向かう飛行機の中にいる。

機内で道元の経歴をおさらいしていると、あっという間に飛行機は降下を開始した。上海から石川県小松空港までは僅かに2時間で到着する。中国人のあいだで日本への旅行は大ブームだが、小松空港方面はあまり人気がないらいしい。日本人ビジネスマンがほとんどで、旅行者らしき人はほとんどいない。

降下している飛行機の窓から外を見下ろすと、日本海が鈍く時化っている。天候は荒れているらしい。冬の北陸は晴れ間が少ないという。今回わたしは道元に少しでも近づいてみたいという気持ちで旅を計画したのだが、道元の人生を思うとむしろ荒れた日本海の方が、己に厳しかった彼の人生によく似合うという気もする。

12:30ほぼ定刻通りに空港に到着した。

12月初旬のその日、日本海沿岸は大荒れで、後になってニュースで確かめたところでは東北以北は大雪に見舞われたそうである。さすがに空港付近は雪は降らなかったが、風が強く小雨が混じって刺すような寒さだった。空港付近で車を借り、一挙に南下して福井県に入った。

三国港を目指している。三国港では冬のこの時期、越前ガニが漁れる。なんのことはない、道元に近づきたい、などと言ったものの、やはり旨いものを食べるのは旅行の醍醐味である。日本の新鮮な山海の幸は中国で生活するものにとって御馳走である。

越前ガニはズワイガニの一種だが、この地域で産するものを特に越前ガニと呼ぶ。赤い甲羅に黒真珠のような斑点が付着しているのが形態上の特徴であるが、この黒真珠はヒルだそうで、南北の海流がぶつかるこのあたりの海域では栄養価が高く、ヒルが寄生するのだそうである。甲羅に付着しているだけなので、中身に影響はない。

越前ガニは冬期のみ収穫できるのだが、無論越前ガニたちは一年中海底に生息している。かつて越前ガニが乱獲され、収穫量が激減したために冬のこの時期だけに収穫が許可されているのである。当然値段も高くなる。高ければ高いほど、一度は食べてみたいという欲望も高まる。

古代の越前人はいくらでも漁獲して食べ放題だっただろうから、なんとも羨ましいことだなあと下品な想像をしたのだが、のち調べてみると越前ガニの歴史は意外に浅く、16世紀にようやく始まったのだそうである。これは越前ガニが深海200-300mに生息するためで、それまでそれほどの深海の海底をさらう漁法は確立されていなかったらしい。

時代は移り変わり、明治に入ると、越前ガニは皇室献上の品に指定され、以後毎年三国港で水揚げされた最高のものが皇室に献上されている。これらは皇室献上級と呼ばれ、無論一般人でも食べることはできる。おそらく一時期の乱獲というのは皇室献上品に指定されたことも大きな要因だっただろう。

三国港に到着した。自殺の名所という不名誉な肩書きをもつ東尋坊界隈には越前ガニの店が立ち並ぶ。わたしたちはそのうちの賑やかな一店舗を選び入った。私には食レポの才能がないので、以下写真を参考にして頂きたい。皇室献上級ではないが、立派な蟹であった。調理前に店の方に持たせていただいたのだが、ずしりと重く、美しい姿をしていた。調理されてもなお美しく、二度と忘れられない味であった。

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